ベルトコンベアによく起こりがちなトラブルとして「スリップ」が挙げられます。スリップが発生すると搬送力の低下や機械の故障、事故や火災など、さまざまな弊害が発生するおそれがあります。
今回はベルトコンベアがスリップする原因や対策方法について解説します。また、スリップを防止するためにはコンベアベルトの選定も重要です。そのポイントについてもご紹介します。
目次
ベルトコンベアでのスリップ
ベルトコンベアは「プーリー」と呼ばれる滑車が回転することでコンベアベルトが動くという仕組みになっています。しかし、何らかの理由でコンベアベルトが滑ってしまい、プーリーの動きと噛み合わなくなってしまうことをスリップと言います。
ベルトコンベアにはよくありがちなトラブルですが、プーリーが空転してしまうほどのスリップが発生するケースもあります。スリップが発生すると熱が発生して故障や火災などの事故にもつながりかねません。
まずは「なぜスリップするのか?」を知っておくことが大切です。スリップの原因には主に以下のようなことが挙げられます。
其の1プーリーラギングの摩耗
プーリーは円盤のような形状になっている部品で、金属や樹脂でできています。これが回転することでコンベアベルトが作動するのですが、ただプーリーにコンベアベルトを巻いただけでは滑ってしまいます。そこで、プーリーの表面に滑り止めの役割をするゴムシートを装着します。これが「ラギング」です。
プーリーラギングの表面には溝が掘ってあります。車のタイヤをイメージするとわかりやすいです。タイヤもラギングも、溝があることで摩擦係数が上がって滑りにくくなります。しかし、長期間使用して溝がすり減ってしまうと滑りやすくなってしまうのです。
頻繁にスリップが発生するようであれば、まずはプーリーラギングが摩耗しているかどうかを確認しましょう。
其の2 ベルトテンションが緩い
テンションとは「張力」のことです。ベルトコンベアを作動させるためにはプーリーとコンベアベルトの間に摩擦が生じている必要があります。テンションが低いとプーリーとコンベアベルトの間に適度な摩擦力が生じないため、スリップしやすくなります。他にもベルトが蛇行したりローラーの抵抗が大きくなったり電流値が異常に上昇してしまったりといった弊害が発生する可能性があります。
とはいえ、テンションが高すぎるとコンベアベルトやプーリーのシャフトの破損にもつながるため、適度な張力を保つ必要があります。定期的にコンベアベルトがたるんでいないかを目視や感触で確認し、張力に変化がないかを測定することが重要です。
其の3 過負荷
コンベアベルトに過剰な負荷がかかると、コンベアベルトの破損やプーリーラギングの摩耗を招き、やはりスリップの原因になってしまいます。また、プーリーの動力となるモーターに大きな負荷がかかると安全装置が働いてベルトコンベアが停止してしまう、モーターが焼き付いてしまうといったトラブルが発生します。
ベルトコンベアが頻繁に停止するなどの症状が見られる場合は、負荷がかかりすぎていないかも確認してみましょう。
其の4 ベルトの滑り性
詳しくは後述しますが、コンベアベルトの特性の一つに「滑り性」というものがあります。その名の通り滑りやすさを指し、滑り性が高いコンベアベルトを採用することで、ベルト上で搬送物が移動しやすくなる、搬送物がコンベアベルトに吸着しにくくなり破損を防ぐことができるといったメリットが得られます。
一方で、摩擦係数が低くなってしまいスリップも発生しやすくなるという側面もあるため、適正なコンベアベルトを選定することも重要です。
スリップの防止方法
ベルトコンベアのスリップは以上のようにさまざまな原因によって発生します。大切なことは日頃からベルトコンベアの作動状況とコンベアベルトの状態を確認し、異常が見られたらすぐに対策を行うことです。早めに対応すれば機械の故障や事故を防ぐことができます。
ここからはベルトコンベアのスリップの対策方法についてご紹介します。症状が見られたら以下のような対策をとることで、スリップが改善できる可能性があります。
ライニング加工
ライニング加工とはベルトコンベアのプーリーの表面をプーリーラギングと呼ばれるゴムシートで覆うことを指します。前述のとおり、プーリーの表面をゴムで覆うことで摩擦係数を向上させ、スリップを防ぐことができます。また、プーリーの腐食や摩耗、搬送物の付着等の防止にもつながります。
特にスリップが発生している場合はラギングが摩耗していることも考えられ、ライニング加工を施すことで改善できる可能性もあります。また、ラギングには「スパー型」「ダブルヘリカル型」「ダイヤカット型」といった種類があります。プーリーの種類や機械に合わせて適切なものを選ぶことで、よりスリップ防止効果が高まります。
詳しくは「※ベルトコンベアのプーリーとは?構造・種類・機能から点検方法まで」で詳しく紹介されているので、ご興味がある方はぜひお読みください。
テークアップ
テークアップとはコンベアベルトの緊張を保つこと、あるいは緊張を保つための装置のことを指します。こちらも先ほどご説明したことですが、コンベアベルトの張力が低下していると、プーリーとの間の摩擦係数が低下してスリップが起こりやすくなります。定期的にコンベアベルトを張って適正な張力を保つことが大切です。
テークアップにはさまざまな方式があります。詳しくはこちらの記事でご説明していますので、ぜひ今回の記事と併せてお読みください。
ベルト交換
コンベアベルトには芯材として頑丈な帆布を使っているのですが、どうしてもベルトコンベアを長期間稼働させていると伸びが発生してしまい、やはり張力が失われてスリップが発生しやすくなってしまいます。
上記のライニング加工やテークアップを行ったとしても症状が改善されない場合は、コンベアベルトが寿命を迎えていることも考えられますので、交換も検討してみましょう。
予防策
以上でスリップが発生した際の対策方法について解説しました。しかし、スリップによるトラブルや事故を防ぐためには、予防策を講じることが大切です。そこで、以下の策をとられることをおすすめします。
スリップ検出器の導入
スリップ検出器はベルトコンベアの回転数をセンサーで検出する機械です。回転数の変動を検出することで、スリップが発生していることを把握できるようになります。重大なトラブルや事故が発生する前に僅かな症状を検出して早めに上記のような対応策をとれば、ラインの停止やそれにともなう損失を防ぐことができます。
コンベアベルトの重要点
ベルトコンベアのスリップを防ぐためにはコンベアベルトの選定も重要です。以下のような性能を考慮して選ぶことで、スリップしにくくなります。コンベアベルトを選ぶ際には着目してみましょう。
滑り性
滑り性とはコンベアベルトの滑りやすさを表します。滑り性が高いと搬送物の移動がしやすくなる、搬送物がコンベアベルトに付着しにくくなるといったメリットがありますが、一方でスリップが発生しやすくなるという側面もありますので、注意が必要です。
耐摩耗性
耐摩耗性とは摩耗のしにくさを指します。コンベアベルトの表面はゴムになっているため、使い続けているとどうしてもすり減ってしまい、やがてスリップするようになってしまいます。耐摩耗性が高いコンベアベルトを使用すれば、長期間使用したり負荷がかかるような使い方をしたりした場合でもスリップしにくくなります。
耐衝撃性
衝撃に対する強さを表します。耐衝撃性が低いと衝撃が加わったときにコンベアベルトが破損したり伸びが発生したりしてしまいます。特に採石場や金属製品の工場など重量物を搬送する場合では、耐衝撃性が高いことが重要です。
難燃性
燃えにくさを指します。特に高温になる箇所や可燃物や危険物の運搬に使用する際には、難燃性にも着目してコンベアベルトを選びましょう。コンベアベルトの難燃性が高ければ、万が一スリップして火災が発生しても延焼防止につながります。
耐熱性
どれくらいの熱に耐えられるのかを表します。耐熱性が低いとコンベアベルトの表面のゴムが溶けて変形してしまい、トラブルにつながるおそれがあります。高温になる場所、あるいは高温の物を搬送する場合は、難燃性とともに耐熱性も考慮することが大切です。
耐油性
油や溶剤にどれだけ耐えられるかを示したものです。ゴムに油が付着すると劣化や変形の原因となり、スリップを招くおそれがあります。機械油が付着した部品や重油処理された石炭などを搬送するのであれば、耐油性にも着目してみましょう。
非付着性
ゴムは吸着力が強い素材です。搬送物がベルトコンベアに強力に付着してしまうと移動がしにくくなります。また、ゴミや細かい破石が付着したまま作動すると、コンベアベルトの破損やスリップにつながります。
離型性
表面に粘着や焼付きを起こさない性質のことを指します。テフロン加工されたフライパンは離型性が高いため、調理物や焦げが付着しにくいのです。運搬物の粘着性が高い場合、離型性の高いコンベアベルトを選ぶことで、スムーズに離れるようになります。
まとめ
スリップはベルトコンベアでよく起こりがちなトラブルではありますが、これを放置したり気づかなかったりした結果、重大な損失や事故につながるおそれがあります。スリップを防ぐためにはベルトコンベアを始動させる前にしっかりと状態を確認し、定期的に点検を行うことが大切です。また、そもそもスリップによるトラブルが起きないよう、今回ご紹介したような対策をしっかりととりましょう。
株式会社ベルコンはベルトコンベアのスペシャリストです。ベルトコンベアやコンベアベルトの提案から設計、納品、アフターサポートまでしっかりと対応いたします。ベルトコンベアのトラブルでお困りの方、コンベアベルトの選定でお悩みの方は、ぜひご相談ください。